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春の宣言

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「…やがて突然に春が来た。ある朝、窓を開けると、空の色が違った。あの鉛色の雲が消滅して、青いまぶしい天蓋がパリを覆っている。そのくらいドラマティックだった。派手で、にぎやかで、街は鎧戸を開け放った屋根裏部屋のように明るい。誰もが外に出てくる。花が咲き、木が若葉をつける。それを透かして日の光が地面に緑色の影を揺する」

「冬があるから春が際立つ」

「そのとおり。そして、その日から公園の噴水に水が通じて、水しぶきに小さな虹がかかる。それがまるで公式な春の宣言のように思われる」

池澤夏樹の『きみのためのバラ』所収の『人生の広場』の一節。


ここのところよく思い出す。今はまだ鉛色の雲と鎧戸の世界。

植物だけが少しずつ戸を開けようとしている。
散歩していると、梅が咲いているのをよく見かけるし、沈丁花の香りもする。
もうすぐ開くはず。